Finance Records

財務諸表や決算書は企業の成績表!!さまざまな分析を通して財務の面白さをお伝えします。

今期の新事業から見るZOZOの戦略の転換について。ユーザーファーストな”だけ”ではなくなった??

ZOZOのプライベートブランドの失敗、ZOZOARIGATOの廃止。そして戦略の転換を図っているように見えるZOZO。今回のZOZOの決算発表は多くの示唆があるように思われます。

 

今回は、ZOZOが戦略を変えてきているように見えるという話を書いてみたいと思います。

 

1年前までのZOZOを簡単に振り返り

2018年までのZOZOはまさに絶好調。取扱高は2017年に2000億を超えていたにも拘らず、2018年末は前年比で27%の成長を見せ、指数関数的に取扱高が上昇していたことが分かります。

 

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https://d31ex0fa3i203z.cloudfront.net/wp/wp-content/uploads/2018/05/20180427_2018Q4_J_N.pdf

取扱高の順調な増加の結果、ZOZOの財務状況は非常に良好。全体の76%もある流動資産の内訳は現金と、「ツケ払い」が引き落としになる前の売掛金がほとんど。取扱高に比べて現金保有が低く「ちょっとリスクが高い経営だなあ」と思う以外には何の問題もないように見えました。

 

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 (流動資産の大部分は現金やツケ払いの未回収分。資金調達サイドである負債と純資産の項目の中には借入金はありません。)

 

このような状況の中、ZOZOはZOZOSUIT、プライベートブランド、そして中期経営計画の発表を行いました。

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https://d31ex0fa3i203z.cloudfront.net/wp/wp-content/uploads/2018/05/20180427_CEO_MTP_N.pdf

(ZOZOSUITに伴うプライベートブランドのコンセプト。)

 

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https://d31ex0fa3i203z.cloudfront.net/wp/wp-content/uploads/2018/05/20180427_CEO_MTP_N.pdf

(中期経営計画においてはZOZOSUITをドライバにした世界展開計画を発表。)

 

このような計画発表の結果、ZOZOに対する期待値は非常に上がり、この後3か月後には株価は5000円を超え、楽天の時価総額を超える結果に。だれもがZOZOの今後の行く末を期待していました。

 

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https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=3092.T

 

しかし、2018年~2019年のZOZOは苦難の連続。プライベートブランドは一年目の200億円という目標に全く届かない27億円の売上にとどまりました。また、ZOZOARIGATOに伴う世間からの逆風という影響もあり、一年前のZOZOと比べると、マイナス面のイメージを持たれることも多くなっているように思います。

 

このような逆風の中、今回ZOZOは戦略を大幅に変更しているように見えます。そして個人的に、その戦略はZOZOをいい方向性に向かわせるのでは?と考えています。

 

その戦略を象徴するのが、MSP(マルチサイズプラットフォーム)事業です。

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ZOZOが今までプライベートブランドで行っていた“あなたサイズ“をブランドの洋服にも当てはめて、協業で成長していこうというような方針です。

 

「なんだ、ZOZOは身体データを持っているんだからブランドと協業していくなんて誰でも思いつくだろ。」と思われる方も多いかもしれませんが、これは今までのZOZOの戦略と少し違う、ZOZOの方向性の転換を象徴しているように思うのです。それを理解するためには、ZOZOの顧客がだれか?という点を明らかにしておかなくてはなりません。

 

ZOZOには2種類の顧客がいる。

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https://corp.zozo.com/ir-info/management-policy/business-model/

まずは上の図をご覧ください。この図はZOZOのビジネスモデルを表した図。これを見ると、ZOZOはブランド側から商品を入荷し、ZOZOで採寸・検品→撮影→在庫保管→ピッキング・梱包→出荷という業務を行い、ユーザーに洋服を届け、それによる手数料を売上としてきたことが分かります。

 

ZOZOの商品の大部分はブランド側が提供してくれるものであり、ZOZOが自社で仕入れて販売する販売形態はほとんどとっていません。つまり、ZOZOはブランド側が商品を提供してくれなければ、ユーザーに売るものがないのです。

 

そのような意味で、ZOZOにとっては我々消費者であるユーザーの他に、ブランドも顧客であるといえるのです。

 

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FY2018年のZOZOは「ユーザーファースト」

そして、ZOZOはこのプライベートブランドを発表してからの施策は、基本的にはユーザーを意識した施策が非常に多かったように思います。

 

サイズがぴったりな服が届いたり、ZOZOARIGATOに加入していると洋服が10%オフで購入でき、しかも寄付にも回すことができるという施策は、ユーザー側からすると非常にありがたい施策です。

 

しかし、ブランド側から見ると、ZOZOSUITで手に入れた身体データは「あなたサイズ」として還元されるはずでしたが、それはしっかり機能しているとは言い難く、しかもプライベートブランドはもろにブランド側のパイを奪うものです。

 

また、ZOZOARIGATOは常時10%オフで販売されている状態である為、自社でEC事業を伸ばそうとしているブランド側から見ると自社の商品がZOZOでは安く売られてしまうという、ブランド側から見るとメリットが少ないと感じても仕方のないような戦略でした。

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このように、2018~2019年のZOZOの施策は非常にユーザーファースト。逆に言うと、ブランドというもう一つの顧客の利益を毀損してユーザーにメリットを提供するような関係性になっていたと思います。

 今期発表された事業は「ブランド側にもメリットがあるもの」に。

さて、それでは改めて先ほどのMSP事業について見てみましょう。このMSP事業はブランドの洋服を多サイズにして事業を行うというものです。

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これは、ユーザーの声にある、「お気に入りのブランドが理想のサイズで洋服を販売していたら嬉しい」という声を反映したものとなっているよう(当たり前っちゃ当たり前の回答ですが)。

 

誰だってお気に入りのブランドが「あなたの体型に合わせて作りました」と言ってくれると嬉しいはず。全く服に興味がない層にはこの施策が届くのかは不明ですが、「服に興味はあって好きなブランドはいくつかあるけど、店舗に行って色々と試着をするのは面倒だ」という層は一定層いるはずですので、その層にアプローチもできるような施策になっているのかなと思います。

 

 

ちなみに、ZOZOはこの事業ともう一つ、EC事業支援についても発表を行っていますが、こちらに関してもブランド側に対するメリットを強く打ち出したものとなっています。

 

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この施策は、「ZOZOTOWN」「自社ECサイト」「店舗」の在庫をZOZOの物流倉庫「ZOZOBASE」で一元管理し、商品欠品による販売の機会損失を最小化することがキモとなっています。これはブランド側にとっては、ZOZOという日本一のファッションECサイトのリソースを自社で利用できるという事なので、恩恵は非常に大きいと思います。

 

このように、今期発表となったZOZOの施策を見ると、ユーザーという顧客だけでなく、「ブランドというもう一方の顧客」も意識した施策が非常に多いような印象を受けるのです。

 

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つまり、ZOZOの今期発表した施策は、ユーザーファーストの視点から、ユーザーとブランド、ZOZOの両方の顧客を意識した戦略へという転換を示すものであると思われます。このような戦略の変更は、今期のZOZOの決算発表で非常に印象的に移りました。

 

では、ZOZOはなぜこのような戦略の変更を行ったのでしょうか。大きく分けて2つの理由があるのではないのかな推測しています。

 

「ZOZOARIGATOに伴うマイナスイメージのインパクト」、そして「ZOZOのプライベートブランドのみでの限界」

 

その理由2つは、「ZOZOARIGATOに伴うマイナスイメージのインパクト」と、「ZOZOのプライベートブランドでだけでの限界」です。

 

マイナスイメージを象徴するのは新規顧客の増加数

「ZOZOARIGATO」は、既存の会員が登録すると常時10%の値引き、そして新規顧客に至っては30%の値引きが受けられるという、価格面で非常にインパクトのある施策でした。しかし、今期のZOZOのデータを見てみると、30%の値引きを行ってまで取り込みたかった新規顧客はほとんど増えないという結果に終わりました。

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しかし、ゲスト購入者からアクティブ会員に一気に移行している所を見ると、その効果は大きい。そう考えると、ZOZOは「ZOZO離れ」などによるマイナスイメージのインパクトが非常に大きかったのではないかと推測されます。

 

企業のイメージを回復させて、ブランドと再び良好な関係を構築するためにこのような施策を取るようになったというのであれば、ブランドのメリットも考慮するようになったこの戦略の転換の意図も十分に考えられます。

 

プライベートブランドは数をさばいているのに…

次に「ZOZOのプライベートブランドのみでの限界」です。

ここについては限界という強めの言葉を使っているため、少し丁寧に数字を元に検証してみたいと思います。

 

ZOZOのプライベートブランドが発表された当初、ZOZOの目標売上額は200億円。そして一年続けてきた今期の決算で、このような振り返りが発表となりました。

 

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スリムテーパード21.7万本。そしてベーシックTシャツ7.5万枚。この両者は、アパレルの年間販売数ランキングの1位と2位を独占しています。実際、ZOZOで1アイテムにつき何万枚も製造できるブランドがどこにあるのかという問題はさておき、年間3000億近い取引量を誇るファッションECサイトでこれだけの販売量は素直にすごいと思います。

 

しかし、この数字を売上に置き換えてみると、少々厳しい数字に。スリムテーパードは3,800円、ベーシックTシャツは1200円~1500円程度のお値段になっていますので、売上はそれぞれ8億2460万円と、9000万~1億1250万円。合計しても10億円にも届きません。

 

 

ZOZOというプライベートブランド全体の売上は、10~20のアイテムで年間27億円。ZOZOの平均商品単価が3000円前後だとすると、1アイテム当たり3万枚程度は売れていてもおかしくありません。しかし、逆に言うとZOZOのブランドだけでは一アイテムにつき数万枚売れている程度では、売上高200億に届くのは非常に難しいと言っていいのではないでしょうか。

 

単価のかなり高いオーダースーツはこれを突破するためのドライバになるはずだったのでしょうが、スーツはカジュアルラインのサイズ選択の何倍もサイズ選びがシビアな世界。

初回こそ大きな盛り上がりを見せプライベートブランドの売上に貢献しましたが、その後売り上げが落ち込んでいる所を見ると、このオーダースーツは市場に受け入れられているとは言い難いと思います。

 

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では海外での売れ行きはどうだったかというと、芳しくなかったのでしょう。会計上特別損失という損失を計上し、海外事業展開は撤退する運びになっています。

 

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https://d31ex0fa3i203z.cloudfront.net/wp/ja/wp-content/uploads/2019/04/190425_J_Extraordinary-Loss.pdf

 

これらを考慮すると、ZOZO単体のブランドでは、単純計算で国内のみで10倍近く販売枚数を増やさない限り、売上で200億近くに伸ばせないことが分かります。

私はここに、「ZOZOのプライベートブランドのみでの限界」があるように思います。

 

これを解消するためにはどうするか?

 

ZOZOで買い物をする人数をさらに増やし、ZOZOのファンになってもらうためにはこのZOZOの独自のサービスである「あなたサイズ」の提供は欠かせません。私は、これらを解消することができるのがMSP事業なのではないのかなと考えています。

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ZOZOの強みを生かし、ユーザーとブランドという2種類の顧客を満足させ、更にZOZOの取引量を増やすためにこの施策は非常に効果のあるものなのではないかと思います。

 

複数のブランドが数万枚ZOZOで販売されるような体制が整うと想像すると、この戦略の変更は、私個人的にはZOZOを非常にいい方向に向かわせるのではないかと思っています。

 

更に、ZOZOはプライベートブランドの失敗から学んでいる(ように見える)

上述したように私はこの戦略の展開には非常にいい印象を持っています。そしてもう一つ、非常に面白いと思ったのがこの事業のZOZOの目標売上高です。

その目標取扱高は10億円。

 

先ほどのデニムとシャツの売上の合計が10億円近いことを考えると容易に達成できそうな数字目標ではありますが、要するにこれは「リーン」での投資を行っていくということなのだろうと思います。

プライベートブランドが始まった際の決算報告のQ&Aを見てみると、プライベートブランドの次のZOZOの成長ドライバにできるという非常に強い自信を持っていることがよく分かります。

 

しかし、実際には想定を大きくした回る結果となった。つまり、日本を代表する希代の経営者である前澤社長をもってしても、顧客の潜在的な欲求を100%つかむことできないということなのです。どれだけ自信があっても、顧客の為になるサービスであっても、顧客が購入してくれるかが重要だという事をよく示していると思います。今回ZOZOが取っている戦略は、「小さく始めて、いい反応があれば集中的に投資を行う」というもの。

 

実際、データを共有する煩雑さであったり、商品の取り分をどう分けるか、在庫管理をどのようにするのか、在庫リスクはどちらがどれだけ負担するのか…等、関係会社が増えると取引コストが一気に爆発的に増えることが目に見えているこのような事業において、「まずは小さく始めみてリスクを最小化する」という選択は、ZOZOが失敗を糧に変化をつけてきたと見ると面白い選択だなと私自身は思いました。

 

以上、このように今回のZOZOの発表は、ZOZOの戦略の転換を示すような非常に面白い発表であったように思います。そしてここまで方向性を変えてくるZOZOは、やはり非常に面白い企業だなというのが私の正直な感想です。

 

これからもZOZOに関しては注目してみていきたいと思います。

それでは、ここまでご覧いただいてありがとうございました。

 

MSP及びfulfillment by ZOZOのスライドに関してはこちら

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