Finance Records

財務諸表や決算書は企業の成績表!!さまざまな分析を通して財務の面白さをお伝えします。

ZOZOARIGATOは思ったよりも惜しかった?「費用対効果が×」だった理由を数字で検証

ZOZOが決算を発表しましたね。

増収減益、ZOZOARIGATOの撤退、新規事業のスタートとそれに伴う戦略の大幅な見直し…今回の決算発表は非常に味わい深いものがあります。

 

そこで今回の決算発表は、私の感じたZOZOのポイントごとに記事を書いていきたいと思います。まず第一弾。発表後わずか3か月程度で終了したZOZOARIGATOについて見ていきましょう。 

f:id:parrrrrao:20190426170050p:plain

 

このサービスは、新規登録者であれば購入金額の30%、既に会員登録している購入者には10%の還元を行うというもの。還元分の金額は購入者が丸々購入商品の減額に使ってもいいし、その分の金額を寄付として使用してもいいという仕組みでした。

 

これが賛否両論巻き起こし、「ZOZO離れ」は多くの人が知るワードとなりました。

そのZOZOARIGATOが終了するのですが、その終了を説明するスライドにおいて、私がおっと思った点がいくつかありました。f:id:parrrrrao:20190426170137p:plain

例えばこのスライド。費用対効果が×になっています。

ZOZOARIGATOは言ってしまえば値下げ戦略だったので、費用対効果が無ければ撤退するのは当たり前の話なのですが、実際の額を見てみると、商品の取扱高は大きく伸びて、前年比の+20%を達成しています。

f:id:parrrrrao:20190426172103p:plain

これでも費用対効果が無かったのでしょうか?だとすると、この施策が成功した!と言える為にはどこまで商品が売れなければならなかったのでしょうか?

 

今回はこの点を中心に考えていきたいと思います。

(ちなみに、「ブランド様との共創、共有、共感を大切に。」と明言しているのは凄く面白いと思います。これはZOZOの戦略の転換を意味しているように思いますので、別記事で書くことにします。)

 

前提確認。ZOZOとZOZOARIGATOの仕組みを数字で見てみよう

 

さて、このZOZOARIGATOの施策の効果を知るためにはZOZOの儲けの構造を知っておく必要があるかと思います。

f:id:parrrrrao:20190426170211j:plain

https://corp.zozo.com/ir-info/management-policy/business-model/

この図はZOZOのビジネスモデルなのですが、ZOZOはご存知の通りプラットフォーム事業。ブランドから商品を預かり、採寸や検品・撮影・在庫の保管、販売されればピッキング・梱包して出荷するところまでを行います。

 

ZOZOの売上は、販売やこれらのサービスに対する手数料ということになります。この手数料の割合はテイクレートと呼ばれ、販売額の約30%をブランド側から受け取るという構図になっていました。

f:id:parrrrrao:20190426170641p:plain

これが、ZOZOARIGATOの場合で言うとZOZOの負担で10%、もしくは30%の割引になっていたので、関係性は下記のように変わります。

f:id:parrrrrao:20190426170658p:plain

とは言っても、実際には会員料として月500円の支払いが待っています。ZOZOの現在の平均出荷単価は約9,500円程度なのですが、それをベースに考えると、一回だけの利用であれば、実質的に5%程度しか減額になりません。

f:id:parrrrrao:20190426170714p:plain

つまりこのサービスは、顧客側がZOZOARIGATOを利用すれば利用するほど還元率が高くなっていくというサービスです。例えば、同じ平均出荷単価で2回目の購入を行ったと考えてみましょう。

このように、2回利用したと計算したらZOZOの負担は購入金額の7%に増加します。

 

f:id:parrrrrao:20190426170729p:plain

その月の内に利用すれば利用するほどこの500円に対して元が取れるようになっていくので、ZOZO側は、ユーザーは一度ZOZOARIGATOを利用したらこのサービスを使い続けていくだろうと計算したのではないかと思います。

 

実際に、ZOZOARIGATOをスタートした際のZOZOの発表スライドを確認すると、「新規顧客の利用促進」「購入頻度、購入金額のそれぞれの向上を期待」となっています。

 

f:id:parrrrrao:20190426170754p:plain

では実際、ZOZOARIGATOはこれらの指標にどれだけのインパクトを与えたのでしょうか。

 

効果測定。~思ったよりも悪かった~

 

さて、ZOZOARIGATOは「新規顧客の利用促進」「購入頻度」「購入金額」という、大きく分けて3つの指標を改善し、結果として売上を大幅に増やそうとしている施策です。

 

そこで、各要素の結果を見ていく前に、これらの要素の関係をより感覚的に掴むために図式化してみましょう。

f:id:parrrrrao:20190426170819p:plain

こんな感じでしょうか。

「購入金額」「購入頻度」「新規顧客の利用促進」は、上記の「平均購入単価」、「一人当たりの購入回数」、「購入者数」の3つの変数と対応する為、ZOZOの取扱高を増加させるためには、この3つの指標を改善すればいい事になります。

 

しかし、結果を見てみると、この3つの要素のうち、2つが不本意な結果となっています。まずは改善された指標からみていきましょう。改善された指標は「購入金額の増加」です。

 

f:id:parrrrrao:20190426170847p:plain

ZOZOはこれまでの傾向として、季節性はあるものの出荷単価が年々減少していました。特にここ数年は、真冬が入るQ3(10~12月)の出荷単価が最大になり、それ以降はガクッと下がるというような形が非常に多かった。今回のZOZOARIGATOの結果か、この購入金額の下げ止めに成功することとなりました。

 

これはまず一つ、非常にいい結果になったのではないでしょうか。

 

では2つ目の指標、購入頻度について見ていきたいと思います。使えば使う程得になるZOZOARIGATOのおかげで、ZOZOの購入頻度は上昇したのでしょうか? 

f:id:parrrrrao:20190426170903p:plain

なんと、ここは購入頻度が減少してしまうという結果になりました。この理由は色々と考えられますが、やはり一番大きな理由はZOZO離れなどの報道なのではないでしょうか。

他に理由が考えられないくらい、購入頻度が明確に減少しています。

 

そして3つ目の指標です、割引率30%という超破格のサービス価格を打ち出した新規顧客の利用促進は、いったいどれだけの効果があったのでしょうか。

f:id:parrrrrao:20190426170918p:plain

個人的には、これが衝撃的な結果となりました。ZOZOARIGATOが始まったのは12月25日で、第4期の期間は1~3月です。

ZOZOARIGATOの効果があったとすると、今期に一気に購入者数が伸びていないといけないのですが、なんと、ゲスト購入とアクティブ会員を合わせた純増数はたった5万人しか増えていません。(ひとつ前の期の純増数は30万人を超えています。)

 

その代わり、ゲスト購入者がアクティブ会員に大移動しています。その数何と24万人。

つまり、ZOZOARIGATOは、当初ZOZOが想定していたような新規購入者にはほとんど響かず、会員登録まではしなかったゲスト購入者を、会員登録に踏み切らせるという効果があったのみということになりました。

 

結果を先ほどの図に落とし込むと以下の通りになります。

f:id:parrrrrao:20190426171038p:plain

ZOZOはかなりのリスクを自社で負担しているのにも関わらず、届いてほしい新規顧客には届かず、しかも購入回数も期待ほどには伸びなかった。これが、ZOZOが「費用対効果が悪い」と判断した要因の一つなのではないかと思います。

 

では実際に、3つの要素はどれくらい増えていればよかったのか?

 では、ZOZOARIGATOが購入人数や購入回数を押し上げることを期待する施策だとすると、3つの要素は一体どれくらい増えなければならないのでしょうか。

 

少しシミュレーションをしてみたいと思います。ここからは推測も少なからず入るので、完全に私の考えとしてご覧いただければ幸いです。

 

少し簡便的な手法ですが、ZOZOの財務諸表を元に、ZOZOの損益構造を組んでみます。

 

f:id:parrrrrao:20190426171020p:plain

 取扱高比は、各数字を取扱高で割った比率になります。

この比率の内、取扱高から売上高に至るまでの比率が、一年前と今とでは37%から32%と大きく減少しています。

 

ちなみに、ZOZOARIGATOの影響はここに表れています。そして、この指標が悪化するということは、増収であっても利益率の大幅な減少を意味します。実際、ZOZOARIGATOは、前年比でみて取扱高が増加しているにも関わらず、結果として営業利益を大幅に減少させるという結果になってしまいました。

 

では、ZOZOは具体的にどれだけの数字が必要になってくるのでしょうか。以前の好調な時の営業利益率(12%)にまで持っていこうとしたとしてシミュレーションしてみましょう。

 

営業利益12%(前期と同等レベル)を達成するために必要なハードルは

今回のシミュレーションではエクセルのゴールシークという機能を利用します。この機能は、営業利益を6%から12%にする為には、どれだけの数字が必要か?というように計算してくれる機能です。

早速シミュレーション結果を見てみましょう。

 

f:id:parrrrrao:20190426171152p:plain

 

左がシミュレーション結果になります。

ザックリですが、これを見ると、ZOZOARIGATOに求められていた目標は、あと「平均購入単価があと500円高く、購入者が後30万人増え、その購入者があと0.2回だけZOZOで注文する回数を増やす」というもの。非常に厳しい目標ではありますが、これを達成していれば、この営業利益率12%という指標は達成することができていました。

f:id:parrrrrao:20190426171341p:plain

ZOZOは、購入者の純増数を30万人にしたことは今までもあります。そう考えると、営業利益率12%とは言わないまでも、ZOZOARIGATOをドライバにして、利益率を大幅に改善することは不可能ではなかったのかもしれません。もちろん簡単な事ではありませんが、私はこれを見て、「意外とZOZOARIGATOは惜しかったのではないか」と思いました。

 

特に開示されている数字より詳細な数字をもっているZOZO本部では、ZOZOARIGATOの施策によってこれだけの数値目標を達成する絵は充分に浮かんでいた可能性があります。

 

しかし、ZOZOARIGATOはそうはなりませんでした。

 

前澤社長のインタビュー記事(https://senken.co.jp/posts/zozo-president-interview-190313)を引用すると、ZOZOARIGATOについてこのように振り返っています。

 ブランドの一部離反は想定していましたが、私的な報道の過熱や、そこに便乗した「ゾゾ離れ」というマイナスワードは想定外。確かに短期で導入を決め、出店ブランドに導入説明が丁寧でなかったことは素直に反省しています。

 

この内容を見てみると、やはり、ZOZO離れというマイナスワードのもたらした影響は大きかったのかなと思わされます。未達となった数字はは一つ一つ見ていくと達成可能に見えますが、この目標の未達は、ZOZOで買うことの付加価値や満足が、単純に値引きでは満たされなかったことを示しているように思います。

  

個人的には、ZOZOには洋服の購買体験を高める方向に行って欲しい

 

私はZOZOを利用する一顧客でしかありませんが、私がZOZOに求めることは、「自分の欲しい服と、それに似た服とを比較検討できる場にする事」「自分の購入履歴などから、より好みのアイテムをレコメンドしてくれること」「同時にコーディネートなどの提案もしてくれること」「試着していない服でもサイズ感が分かるようにサイズ表示してくれること」

等です。ZOZOは日本ではやはり他に類を見ないほど多くの洋服が集まっていますし、その中から欲しい服を見つける作業は非常に面白いものがあります。

 

もちろん、値段が安いに越したことはないのですが、何より勝るものは「自分に似合ういい服を見つけられた」と確信した時の高揚感なのです。

 

ZOZOは色々な服を比較検討できる場であることは充分によく分かります。他のサイトは比べ物にならないくらいの使いやすさがZOZOにはあります。

 

ZOZOの持つ圧倒的な購買データや、ZOZOSUITの体型データを元にして、これらの体験を得ることができる未来は来るのでしょうか。

 

ZOZOARIGATOが思ったよりも新規顧客に響かなかった今、ZOZOは顧客を誰に設定して、次の施策として一体どのような事を行っていくのかはすごく大事なように思います。そのあたりは「ブランド様との共創、共有、共感を大切に。」と明言している点からも、少し前のZOZOの姿勢とは少し変化が見られるような気がします。

 

いずれにしても、今後どんな施策を打ってくるのかを楽しみにしたいと思います。さて、ほかのポイントについては次の記事で書きたいと思います。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

 

記事内に記載されているZOZOのスライドは下記を参照しています

 

 ZOZOARIGATO撤退説明

https://d31ex0fa3i203z.cloudfront.net/wp/ja/wp-content/uploads/2019/04/20190425_slide_jp.pdf

・今期の決算

https://d31ex0fa3i203z.cloudfront.net/wp/ja/wp-content/uploads/2019/04/190425_J_2019_4Q.pdf

・ZOZOARIGATO開始説明

https://d31ex0fa3i203z.cloudfront.net/wp/ja/wp-content/uploads/2019/01/20190131_slide_jp.pdf