Finance Records

上手く行っている企業は何が違うのか?目標に届かなかった理由は何だったのか?様々な企業を記録し、財務分析を発信します。

NETFLIXの攻めの姿勢を支えるものは会計思考ではないか。財務諸表から紐解く、NETFLIXの会計の使い方。

今回はNETFLIXの財務諸表から、NETFLIXの攻めの姿勢と、それを支える会計思考について財務諸表から紐解いてみましょう。

 

NETFLIXはご覧いただけるように、一年で稼いだ税引き後当期純利益をはるかに上回る投資を毎年行っています。

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2018年末のコンテンツ投資額は日本円に換算してなんと1兆4478億2150万7千円。この金額は2017年のスーダンやマカオ、エチオピアの国家予算に匹敵します。中規模国家の国家予算ですね。

(出典:https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_by_government_budget

 

このような大規模な投資は、様々な国の嗜好に合わせた人気コンテンツを次々と投入していく為に必要な投資でした。

実際に、日本でもテラスハウスやあいのり等、人気コンテンツがNETFLIXのオリジナルコンテンツとして配信されています。

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https://www.netflix.com/jp/title/80067942

このような大規模な投資の結果、視聴者数を次々に増やし、既存の業界を破壊しにかかっているNETFLIXですが、このコンテンツにかけるお金は一体どこから湧いてくるのでしょうか?

 

冷静に考えれば、税引き後純利益をはるかに上回る投資を数年に渡って行い続けているのですから、これを続けていくと普通は破綻してしまうような気がします。

それにも関わらず、NETFLIXの貸借対照表(以下、BSとします。)を見ると、現金は伸び続けています。

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利益以上の大規模な投資を行っているにも関わらず、現金は伸び続けている。これは一体どういうことなのでしょうか。これを探るためには、まずNETFLIXのキャッシュ・フロー計算書(以下、CS)を見る必要があります。

 

CSは「企業が何にどれだけの“現金”を使って、どうやってお金を集めたか?」ということが分かります。これを確認した後に、BSを確認します。

 

BSは「企業のお金を今までどのように集め、どのように使ったか?」が分かるような財務諸表です。ここから、NETFLIXの今のおサイフの状況を覗いていく事にしたいと思います。(BSについては長くなりそうなので次の記事にします。)

 

NETFLIXは手持ちの数千億円を一年で使い切っている。

 まずは2018年のNETFLIXのお金の使い方を見てみましょう。

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スタート時点の現金は3133億円(1$111円で換算しています。)、これに対して事業で得たお金を示す営業活動CFは2975億円のマイナス。また、投資活動CFは事業の投資に使う為の資金で376億円使っています。つまり、NETFLIXは持っているお金の殆どを1年の企業経営で使い切っている事となります。

 

これは投資額ではなく、事業で得た収入も含めての収支ですので、キャッシュアウトの額が物凄いということがお分かりいただけるかと思います。

コンテンツへの投資は1兆4478億2150万7千円にもなりますので、並の企業ですとあっという間に経営破綻してしまいそうな額です。

 

では一体どのように資金を集め経営を続けているのかというと、「財務活動CF」のグラフが、4493億円と大幅に増加しています。この財務活動CFの増加は、借入か増資などでお金を集めている事を示しています。

 

これら一連のお金の流れは、NETFLIXの企業経営を知る重要な要素の一つになります。少々難解な部分ですが、この資金の流れをより細かく見てみましょう。

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営業活動、投資活動、財務活動CFをすべて細かく要素分解してみました。

両端の黒い部分が期首と期末の現金です。これに対して、青色が現金の増加、オレンジが現金の減少という関係性になります。

 

さて、まず目を引くのが急激に減少しているオレンジ部分ではないでしょうか。これがNETFLIXの配信コンテンツへの投資です。期首の現金と、当期純利益を合算しても到底賄えないほどの資金投資が行われている事がよく分かります。

 

これに対して、配信コンテンツ投資額の二つ隣に大幅な増加を示すものがあります。

これは過去に行ったコンテンツ投資の減価償却です。この減価償却というのは、会計の世界特有のもの。会計の世界特有の概念で、コンテンツに投資したお金が一気にその年の費用になるのではなく、何年かかけて分割して費用になるのだと思ってください。

 

減価償却について少し解説

 例えば、100万円のコンテンツに投資した場合、下記の図のように複数年に分割して費用計上します。

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これには一応理由があります。NETFLIXを例にとると、NETFLIXがコンテンツに投資した場合、そのコンテンツは一年で配信を停止するでしょうか。

 

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https://www.netflix.com/jp/title/80067942

NETFLIXはIT企業。取り扱っている商品は「データ」です。これはメーカーのように在庫を置く倉庫が必要なわけではありません。

 

しかも扱っているデータは映画などの「エンタメ」。ここには人の嗜好性の幅があり、古い商品に価値がなくなることはありません。例えば私が最も好きな映画は30年以上も前の映画ですが、未だに見返したりします。このようなコンテンツは古くなったからと言って誰も見なくなるという類のものではありません。

 

つまりNETFLIXは、一度投資したらその商品はずっと売り続けられるという性質を持っているのです。そのような商品への投資を一度に費用化してしまうと、2年目からは何の費用も掛かってないのに売上だけ上がるという状態になってしまいます。

それを防ぎ、企業の実態を正確に表すために、投資した年以降、何年も使えるものは複数年に分けて費用にするという形を取っています。

 

減価償却が分かるとNETFLIXが投資に使える本当の金額が分かる。

  説明が長くなってしまいましたが、このように考えると、減価償却というのは「その年にお金が出ていってないのに発生している費用」です。つまり、NETFLIXがもともと使えた現金は、下記の図のように減価償却を足し戻した金額になります。

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期首の現金と税引き後利益だけでなく、この減価償却費の分の現金を足し戻すと、NETFLIXがコンテンツ投資に使えた現金は1兆4086億3151万4千円。NETFLIXの今期コンテンツ投資額である1兆4478億2150万7千円にかなり近づきました。

 

少々難しい話でしたが、いかがでしょうか。こうやって考えると、NETFLIXの1兆円規模の投資は確かに大規模ではあるものの、理解不能なほどのお金のバランスが崩れている訳ではありません。ただし、これらの額の投資は会計や財務が分かっていないと到底できるものではありません。

 

このように減価償却分の費用を足し戻した額をすべて投資に回そうと思うと、非常に緻密な資金繰りや素早い会計計算と、それに基づく経営者の投資意思決定が必要になってきます。NETFLIXは決算後数週間で決算発表することもありますし、会計面が非常に強い企業だという印象を受けます。

このように会計を経営に使う企業は成長の速度が速いことが多い印象を受けます。

 

というのは、このように会計を使いこなすことができると、必要な投資に必要なだけ資金を投入することができるのです。また、少し発展形になりますが、ファイナンスを用いた投資意思決定なども使いこなすことができます。

 

しかもNETFLIXはこのような資金のマネジメントを数年間続けています。これは普通の企業がやると一気に資金ショートすると思います。NETFLIXを支えているのは圧倒的なコンテンツへの投資ですが、その裏には深い会計への理解があるように見受けられますね。

 

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とは言え、何年にも渡って多額の借り入れをしている事は事実です。そこで、このような借り入れを行っている企業はどのような財務諸表になるのか、次回の記事はNETFLIXのBSを見てみたいと思います。