今回は企業の戦略、意思決定が財務諸表にどのように表れるかを分析する為に、無印良品のBS、貸借対照表について見ていきましょう。BSは「会社がどのように資金を集め、何に使っているのか?」が分かる財務諸表です。
この良品計画の財務諸表からわかることは、良品計画は商品の販売力が強く、小売りとして投資戦略も非常に緻密に構築されているということです。
早速見ていきましょう。無印のBSはこのような感じになります。
BSの表示方法にはルールがあり、右側が資金の調達の方法、左側がその資金を何に使っているのかということを示しています。
そして、企業のお金の流れは非常にザックリ言えば上記のような順番をたどります。なので、一番最初は「どのようにお金を集めているか?」を確認するといいかと思います。
BSの右側は資金調達の方法を示す
それが分かるのはBSの右側。なのでまず、右側の資金調達から見ていきたいと思います。
流動負債、固定負債、純資産という3つのくくりがあります。負債というのは、「銀行などからの借り入れ」です。一方、純資産は「投資家からの資金調達」です。
ただし、純資産には「企業自身が稼いだ利益」も計上されています。
良品計画は利益剰余金が純資産全体の94%で非常に多額です。この利益剰余金が、「企業が自社で儲けたお金」です。 この金額が大きいということは、無印良品は「自社で圧倒的に儲けることに成功している企業」だという見方をすることができます。
良品計画のBSの右側は純資産だけではありません。流動負債(1年以内に返済する負債)も全体の20%を占めているので確認してみましょう。
こちらは買掛金が流動負債の半分を占めています。買掛金とは取引先へのツケです。結構大きいですね。ビックリです。
(ちなみに)このツケは何カ月で支払われているか?
ちなみに、このツケは一体何か月分なのでしょうか。これは仕入と買掛金の関係が分かると簡単に求めることができます。
仕入と買掛金の関係はこんな感じです。毎月仕入れた分は財務諸表に仕入として計上されます。そして、その支払いをしていきますが、良品計画のような企業では、支払は現金では行いません。
仕入れて、数か月後に支払うという形をとるのですが、まだ支払っていない分が買掛金として計上されるのです。なので、仕入れた分を全体として、残りが買掛金だと考えれば、「仕入全体からまだ支払っていない割合を求めて12カ月をかける」と、ツケが何か月分か計算が可能です。
良品計画は1.27なので、1か月と10日程度で支払っていますね。なので、大きな買掛金の割合は、単純にめちゃくちゃ仕入が多い結果だと言えそうです。
ちょっと話がそれてしまいました。まとめると、良品計画は、自社で稼ぐことが資金調達のメインであると言えそうです。
調達した資金の使い先は資産(左側)に表れる。
さて、良品計画の資金調達方法は「自社で稼ぐ」方法がメインでした。
では次に、そうやって調達した資金を何に使っているのかを見てみましょう。
良品計画の財務諸表の左側を見ると、流動資産が全体の67%を占めています。この流動資産の詳細を確認していきたいと思います。
まず最も大きいものは商品でした。次に現金ですね。そののちには受取手形等、未収入金(今後入ってくるお金)と、将来現金変わり得るものが多く含まれています。
もちろん、回収可能なのかという問題はありますが、合計すると784億円。無印良品は相当なキャッシュリッチ企業であるという印象です。借入無しでこれは純粋に凄いと思います。
しかしどちらかと言うと、分析するポイントは流動資産の最も大きな部分を占める商品でしょう。商品は、無印良品の売上の内訳を見て頂けると分かる通り、衣類・生活雑貨・食品・その他に分かれています。
その内、現時点で最も売上が上がっているのが生活雑貨・小物ですね。この部門で最も売上が大きいのは化粧品、そして家具、次に衣類です。
(家具:https://www.idee-online.com/pdf/catalogue.pdf)
(化粧品、衣類:https://ssl4.eir-parts.net/doc/7453/ir_material_for_fiscal_ym1/54024/00.pdf)
このようなものが無印良品の商品として計上されています。
様々な商品がまんべんなく販売されているので若干比較はしにくいのですが、良品計画の商品の販売ペースを比較してみましょう。
衣類、化粧品、家具の数社の財務諸表から、「棚卸資産回転日数」という指標を抜き出してみます。
棚卸資産回転日数で良品計画の販売力を見てみよう
計算は簡単で「商品÷売上原価×365(日)」です。では早速見ていきましょう。
日本を代表するような企業を引っ張ってきました。かなり意外な結果も多いですね。
まず衣類。こちらはユナイテッドアローズとファーストリテイリングですが、回転日数自体は大きく変わりません。大体100日前後といったところでしょうか。
次に化粧品。個人的にはここが一番意外でしたが、両社ともに回転日数は200日を超えています。平均的に、商品が出来上がってから6~7カ月ほど会社内に滞留している事になります。化粧品はもっと回転が速いと思っていたので非常に面白い結果となりました。
次に家具部門。ニトリは回転日数が異常に低いですね。回転日数は70日前後なので、自社の商品は約2カ月程度で売り切ってしまうことになります。ニトリの強さを象徴する指標でしょう。
これに対して大塚家具は230日程度。この回転日数は高級家具だからということもあるのでしょうが、数年前から40~50日ほど回転日数が伸びている事を考えると、お家騒動の影響が非常に大きいという印象を受けます。
家具だけちょっと極端なデータになりそうですが、ここに衣類・化粧品・食品すべてを販売する、良品計画の回転日数を載せてみましょう。
良品計画の回転日数はちょうどこの全ての企業の平均値のような日数になっています。
家具や化粧品を主力に販売しているにも拘らずこの回転率だということは、良品計画は各社専業企業と同じようなスピードで商品を販売することができている可能性が高まりますね。
自社の様々な商品を捌き切れる販売力の強さは、良品計画の大きな強みの一つと言っていいでしょう。この販売力があるからこそ、良品計画は商品の値段を安価に設定することができます。
この値段設定の内容については前回の記事をご覧ください。
値段を安く設定するような戦略はこのような所にも繋がっているんですね。
固定資産から企業の意思決定を確認
他の資産についても見ていきましょう。この固定資産には企業の事業用資産、つまり経営に必要な投資が計上されることが多いです。その為、数字だけでなく、実際の投資先も併せて想像しながら確認していくと非常に面白いと思います。
まずは有形固定資産です。
建物が最も多いですね。この建物の中身は有価証券報告書で確認できます。
(https://ssl4.eir-parts.net/doc/7453/yuho_pdf/S100D0Q3/00.pdf)
最も多いのは店舗です。他にはキャンプ場、物流倉庫も所持していますね。
(https://ssl4.eir-parts.net/doc/7453/ir_material_for_fiscal_ym1/36872/00.pdf)
このような店舗への投資や、工場への投資がこの有形固定資産に計上されて行きます。
また、特に重要なのは物流だと思います。多店舗展開している企業においては商品の欠品を防ために物流に多額の費用を投下するケースが多いですが、良品計画も2014年に130億近く投資した鳩山倉庫を筆頭に、非常に大きな投資が行われています。
また、良品計画は数年前から上記の通り「グローバルサプライチェーン」を構築するという計画を発表しており、このような所からも物流に対する力の入れ具合が見てとれます。
(https://ssl4.eir-parts.net/doc/7453/ir_material_for_fiscal_ym1/36873/00.pdf)
そして、良品計画は単純に物流を改善しようとするだけではなく、ソフトを使って顧客データと紐づけた物流を行おうとしているように思います。
ソフトウェアへの投資は物流への投資と連動している
その連動していると思われるのが、顧客の声を効果的に集める「MUJI PASSPORT」というシステムです。このシステムは、顧客の声を適切に商品企画に反映します。そして、その顧客に迅速に届けるために物流への投資が必要なのです。
MUJI PASSPORTで集積された顧客データは、AWSによって集積されます。
(https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1406/04/news013_3.html)
そして現在では、このデータを分析して商圏を可視化するような取り組みも行われているよう。
(http://www.wingarc.com/product/usecase/detail.php?id=187)
これらは財務諸表の無形固定資産のその他に表れています。
ただ店舗に投資するだけでなく、店舗に迅速に商品を届けるために物流に投資し、更にその物流に乗せる商品を的確に開発する為にMUJI PASSPORTなどのソフトウェアに投資する。
ただ物流を改善しよう!という訳ではなく、それに伴って必要な投資がしっかりと行われている事がよく分かりますね。投資内容が戦略的な印象を受けます。恐らくですが、このような生の顧客データは良品計画の今後の店舗出店の際にも有用なデータとなる事でしょう。
最後にまとめ
まとめましょう。改めてBSの左側、特に固定資産を見て頂きたいのですが、先ほど挙げた店舗、物流工場、データ分析、これらは良品計画のBSの内大きな金額を占めていることが分かります。
工具器具、そして敷金は説明を省きましたが、工場の備品や店舗や工場の敷金ですので、店舗や工場への投資の一環でしょう。このように考えると、財務諸表のBSには企業の意思決定が表れるということはよく分かりますね。
そしてこのように投資を一貫してみると、良品計画は投資内容が非常に戦略的であるように思います。良品計画は今後どうなっていくのでしょうか。今後ますます楽しみにしていきたいと思います。
追伸
このような無印良品のBSを自社に活かすとしたらどう工夫できますか?
何に投資しますか?回転率の把握はしていますか??
自社の決算書から分かることはたくさんあります。
どういう数値を改善する為に、どのような行動を起こすとこの事例を自社に活かせるでしょう?
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