ネット広告業の三社比較、今回はBSから企業戦略を読み解いてみましょう。
登場人物はeMnet,Fringe81,サイバーエージェント。
・eMnetは現在単純にネット広告の販売コンサルのみを行っています。
・Fringe81はネット広告だけでなく独自のユニークな施策として、Uniposという新しいサービスを提供しています。
・ サイバーエージェントはゲーム事業など様々なサービスを提供し、さらにAbemaTVに投資を行っています。
このように、ネット広告業界は、単純にネット広告を打つだけでなく、様々な施策を行い、それが各社の独自性となって表れているように思います。 そして、そのような意思決定は、財務諸表の中のBSに表れてきます。
今回は少し趣向を変えてクイズ形式。3社のBSの配分割合から、どのBSがどの企業であるかを考えて頂きたいと思います。
BSの比率を見るだけでどの企業かあてられる?
これは上記3社のBSを比較したものになっています。BSは真ん中で二つに区切り、右側の水色がどうやって資金を調達したか、左側のクリーム色がその資金をどのように投資しているのか?を示しています。
さて、eMnet,Fringe81,サイバーエージェント。どのBSがどの企業のものかあてられるでしょうか?
ヒントは各企業の行っている事業と置かれている環境にあり。
ヒントとして、各社のより詳しい事業内容をお伝えしておきましょう。
eMnet
まずeMnetは2018年にIPOしたばかりのネット広告の専業企業です。FacebookやGoogleなどなか広告の枠を買い、そこに広告を提供したい企業に対して広告の提案や分析などの付加価値をつけて販売する事業になっています。そして、eMnetが最も重要なことは「子会社である」という事です。子会社であることは、BSにどのように影響してくるのでしょうか。
https://ssl4.eir-parts.net/doc/7036/ir_material_for_fiscal_ym/54482/00.pdf
Fringe81
Fringe81は2017年にIPOしたばかりの企業。広告の販売や分析&提案だけでなく、広告事業からの企業の収益化支援(スマニューなどの収益かを支援しています)を行っています。近年それに加えて、新しい独自事業としてUniposを提供しています。
https://ssl4.eir-parts.net/doc/6550/tdnet/1672893/00.pdf
Uniposとは、成果報酬の一部を送りあう権限を従業員に委譲するサービスです。
従業員側で見ていると、「この人がいるとすげえ働きやすいなあ…」と思っていても、会社であまり評価されないような人とかいらっしゃいませんか?Uniposを使うと、そのような人に同僚が成果給を送りあうことができます。
組織にとって有益な事をしている人が成果を得るという形で、今後発展が見込まれているサービスになっています。IPOした企業は今の社会にないものを産み出そうとしています。その為に必要なものに対して投資をする傾向にあります。BSにはこのような意思決定がどのような形で反映されるでしょうか?
サイバーエージェント
最後にサイバーエージェント。日本有数のネット広告企業です。実際には、ネット広告だけでなく、ゲーム事業やAbemaTVなどのメディア事業を行っています。
http://pdf.cyberagent.co.jp/C4751/sCL4/jzzk/lgJw.pdf
スマホゲーム事業は「開発が非常に大変だが、当たれば大きい事業」であると言われています。
http://pdf.cyberagent.co.jp/C4751/sCL4/jzzk/lgJw.pdf
サイバーエージェントも「ドラクエ」や「グラブル」などの人気のゲームを多数擁していますが、非常に上下動が激しく、広告宣伝もかかるため、このように大規模に様々なゲームを提供するのは大手ならではなのかもしれません。
まとめると、eMnetはネット広告の様々なサービスを、Fringe81はネット広告に加えてUniposを。サイバーエージェントはネット広告の他に、ゲームとメディア事業を提供していました。
改めて、どのBSがどの企業のものになるでしょうか?
正解発表
答えは上記の通りです。
サーバーエージェントが重たい投資をしている為、固定資産が40%を占める一番上かと思われた方もいらっしゃるかもしれません。
この辺りは、実はBSの左側の投資先だけでなく、右側の資金調達方法も見なければ答えが出ません。「現在投資している事業と、その回収期間」「その投資を行うための資金調達方法」などを考慮に入れるという事です。
サイバーエージェントは現在AbemaTVへの投資を中心に行っています。AbemaTVは、「今までのテレビをネットに移してこよう。」というような施策ですので、面白いコンテンツをどんどん出してテレビから顧客を奪っていかなくてはなりません。
このような投資は投資額が非常に多額となりがちで、しかも資金回収の回収期間が長いと思われます。
このような投資に対して、どのような資金調達が適切かというと、「1年で返済しなくてはいけない資金調達」ではなく、「長期の期間をかけて返済していく事が許される資金調達」です。その結果、固定負債の金額が多額になるという事ですね。
このように考えると、実は固定資産だけでなく、固定負債も大きいことがサイバーエージェントのBSを特定するヒントになっていたことが分かります。
各企業の意思決定を(勝手に)分析してみよう
実際の金額も追加してみましょう。
実際に金額を見ると全く違いますね(笑)
1社ずつ見ていきましょう。まず規模の大きいサイバーエージェントから。
サイバーエージェント
サイバーエージェントは流動資産が1585億円あり、全体の74%を占めていますが、その内訳は現預金、受取手形、有価証券で全体の90%を占めます。非常にキャッシュリッチな企業ですね。
事業を運営するための投資は固定資産に558億円計上されています。
どの事業に固定資産が投資されているかを見てみると、圧倒的にゲーム事業への投資が大きいです。
ここから分かることは、やはりゲーム事業は投資の絶対額が非常に大きくなりがちで、大手が資本を集中して利益を上げるような形態になっている事でしょうか。
しかし、売上と利益を確認すると、サイバーエージェントのゲーム事業は売上に対して利益を効率的に稼ぐことができており、投資すべき事業であることが分かります。
このように、BSは真ん中で区切って、資金調達と資金投資の関係を見るだけでなく、PLなどの他の財務諸表との関連性を見ることによって更に深い理解をすることができます。
一度やってみて頂けると嬉しいです。
Fringe81
さて、Fringe81とeMnetは事業規模が似通っていますが、Fringe81の方が10億円ほどBSの規模が大きいです。そして、Fringe81その分の資金投資は「固定資産」に振り分けられています。
その固定資産の中身は何かというと、本社の内部造作がメインのようです。
Unipos自体には大きな投資が見られませんでした。
これは、Fringe81などのような上場間もないベンチャー企業は、大きな投資をせずに、小さく投資を行い、当たったサービスを成長させていくという戦略が取られるからだと思います。
このような事業は流行り廃りが激しく、もしかするとUniposも他企業が似たようなサービスを出してくるかもしれません。その為、IPOしたばかりの企業においては、サービス自体に多額の投資をせずに、従業員が働きやすく、クリエイティビティを発揮しやすい環境に投資をするような傾向が見られます。
Fringe81もその延長線にある投資なのではないかと思います。
このようにして見ると、同じネット広告企業であっても大手とIPO企業では取られる戦略が大きく異なることが分かります。
eMnet
eMnetは非常にシンプルなBSになっています。この辺りは、eMnet自体が子会社であることが関係しているのかもしれません。大きな枠の戦略などは韓国にある本社で行い、それらのサービスを提供することを目的としている企業なので、大規模な開発を行う必要がなく、固定資産などが膨らまないのではないでしょうか。
本社のHPを覗いて見ましたが、具体的な財務諸表を見つけることができませんでしたので、これくらいの事しか言えませんが…
以上、3社のBSを見比べて、その企業の戦略を見ていきました。皆さんはどのように思われたでしょうか。
BSからこのような事が読み取れると楽しいと思いますので、皆さんもよければBSを読み解いてみてくださいね。それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。