皆さん、旅行はお好きでしょうか?
旅行がお好きな方も、クルーズツアーに参加されたことがある方はそう多くないかもしれません。今回は、そんなクルーズをもっと身近に。若い旅行者や、クルーズをしたことがない人に向けてクルーズサービスを提供する「ベストワンドットコム」について見ていきたいと思います。この企業はなんとHISの社長の息子さんが起業した会社だそうです。
2代に渡って企業を上場させるとは、すごいの一言に尽きますね。では、その詳細を見ていきましょう。
ベストワンドットコムとはどんな企業なのか?
クルーズといえば、裕福層のイメージ。というのも、まず船のチャーター自体が高価であり、クルーズ期間に係る費用も多額に上るため、ある程度客単価が高くないと回収できないのでしょう。しかし、2018年に上場したベストワンドットコムがメインの顧客は資金にあまり余裕のない若い旅行者たち。
いったいどのようなビジネスモデルで、どれだけ利益を上げているのでしょうか。
確認していくことにしましょう。
サービスの中心は「ベストワンクルーズ」。乗船券とパッケージツアーをオンラインで検索・予約が可能なサイトの運営がメインとなっています。
予約可能なラインナップは「乗船券」「自社企画商品」のほか、「提携旅行会社のツアー」などが含まれます。その他にはハネムーン専門のサイトである「フネムーン」、高級船専門サイトの「ファイブスタークルーズ」があります。
とは言え、これだけではよく分かりませんので、もう少し提供されているサービスを見てみましょう。
まずはプラットフォーム事業。どうやら、ベストワンドットコム自体はクルーズ船を保有しているわけではなく、船会社や旅行会社からクルーズ商品を仕入れ、ベストワンクルーズ内で販売する卸売業に位置するような会社のようです。
ベストワンドットコムの差別化ポイントは?
ここではベストワンクルーズの差別化ポイントが少し記載されています。それによると、ベストワンクルーズはすでに船会社などが提供する商品を提供することが多いようです。一方、他社などは既成のパッケージが多いそう。既成のパッケージングを行っていないため、人件費や追加費用が掛からず、結果として安価なツアーを提案できるようです。
情報化が進んだ今日では、サイトでの「情報発信」の質と量がビジネスの速度を決めると言われていますが、ベストワンクルーズの選択は「他企業と提携して、多くのプランの中から自分の気に入ったプランを選んでもらう」というスタンスのようです。
だからなのでしょうか。ベストワンクルーズのサイトは情報がたくさんでもはや「チラシ」状態です。
一方、同じ会社でも高級船のHPはシンプルでスタイリッシュな印象。顧客層によってサイト運営をしっかりと変えている姿が印象的です。
なんと従業員は22人!(2018/7/31時点)
このように、顧客層の違いによってサイトを変え、様々な会社からプランを仕入れて、オンラインで回していく。これも十分すごいのですが、私が衝撃を受けたのは、このような事業をなんと、たった20人ちょっとで回している所にあります。
ここも安価なプラン提供に一役買っているでしょうが、20人でこの規模の事業を回せるのは現代の技術があるから成立しているのでしょう。
ベストワンクルーズが提供するプラン数は現在2万弱。このようなプランを20人で回すというのは、システムをよほどきれいに構築しているということでしょう。
実際に、ベストワンクルーズの資料によると、API連携によるWEBサイトへのコース自動化を強化しているとのコメントが確認できました。空室状況などを自動化することで、少人数ながら多くのプランを掲載することに成功しているようですね。
財務諸表を確認
以上見てきたように、基本的にこのベストワンクルーズはプランを掲載したい企業と、クルーズを楽しみたいユーザーをマッチングする「プラットフォーム事業」ということになります(チケットを自社で購入して、自社プランを組む場合もあるようです。)
簡単に財務諸表を見てみると、
IPOしたての企業らしく、売上は右肩成長を続けています。
9期を起点とした成長率は上記のとおりです。金額が少額ということもありますが、9機から売上は378%成長しています。
そして損益構造は上記の通り。売上原価がほとんど。販管費は従業員の少なさもあってか売上の14%に留めることができています。
売上原価がこれほどまでに高い理由は、売上の計上基準が「取扱総額」だから。取扱総額はユーザーがチケットを買った総額のことで、そこからベストワンクルーズは手数料として自分の手取りが確定します。自社の手取りは高くても30%でしょうから、売上原価のほとんどがクルーズ提供側の利益やチケット代ということになるでしょう。
この辺りは、ベストワンクルーズがもう少し成長して、多くのチケットを抑えるようになれば、量が増えていくことで割引が利くのでもう少し下がっていくかもしれません。
資産状況とキャッシュの状況を確認
後は、資産状況とキャッシュフロー状況も簡単に見てみましょう。
まず資産状況。資産保有状況は、流動資産が96%を占めています。これの中身は現預金と、「旅行前払金」。ベストワンクルーズは、やはり先に購入する前払い方式でチケットを確保しているようです。また、固定資産が少ないことから、自社でクルーザーを保有しているわけではないことが分かります。
資産調達サイドを見てみましょう。流動負債、固定負債、純資産がまんべんなく振られています。流動負債は「旅行前受け金」で、ユーザーがチケットを購入した入金額です。
固定負債は長期借入金、純資産は株主の投資と自己の利益です。
このように、ベストワンクルーズは先にチケットを抑えると言っても、その分の金額をユーザーに入金してもらうという形で資金繰りは現状上手く回しているように思います。
しかし、この点は顧客満足度と直結しそうですので、今後どのように変遷していくのかは気になるところです。
次に、キャッシュフロー計算書を覗いてみましょう。
キャッシュフロー計算書については、数年分を繋げてみると面白いことが分かりました。
上記は2016年の頭から2018年末までの現金の推移(キャッシュフロー)です。黄色がBSに計上されている現金です。これを見ると、現金は期をまたぐ毎に増えていっています。
そしてその理由を見てみると、営業活動CF(事業で稼いだお金)も徐々に増えていっていますが、現在現金が増える最も大きな要因は財務活動CF(投資家からの調達や銀行からの借入)が最も大きいことが分かります。
これは事業を拡大し、より多額の現金を稼ぐために必要な資金を調達しているということでしょう。ベストワンクルーズは、今後成長していくために必要な準備は着々と整えているように見えます。
最後に
以上が簡単なベストワンクルーズの紹介になります。22人のメンバーでこれだけの事業を回すのは凄いの一言です。しかし、私自身はベストワンクルーズが取り扱っている事業が、基本的には「他企業のプランをユーザーにマッチングするのみ」という点が気になっています。ベストワンクルーズを選ぶ理由が、「安さ」と「プランの多さ」しかなく、突出したビジネスモデルがあるようにはあまり見えないのです。
しかも「クルーズ事業」に特化しているとは言っても、日本にはHISなどの大手が存在します。この大手が本気でこの分野に参入することはないのでしょうか?
また、ベストワンクルーズの成長は、日本の大手旅行会社と比べて早いものなのでしょうか?
この点については少し疑問があるのかなという印象です。
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