2019年のQ1のファストリの財務諸表が公開されました。
私自身は前期からファストリの財務諸表の分析記事を書いているのですが、その際に「儲かっているにも関わらず社債で現金を調達している」「なぜか大量の在庫を仕入れている」という2点に注意していました。
資金調達の前の段階で、ファストリは既に600億近くの現金を保有していました。なのになぜ、わざわざ400億の資金調達を行ったのか。
また、棚卸資産は、売上の伸びと比例するような形で仕入れていたのにもかかわらず、なぜ急激に仕入れたのか。
私は「海外展開を加速させるために、資金を貯めていっているのではないか?」と考えました。この3カ月で、上記の現金と棚卸資産どのような動きがあったのでしょうか。確認していきましょう。
結論から言うと何の動きもなかった
今期のデータを追加しました。結論から申し上げると、期待していたほどには現金も在庫も変化が見られませんでした。これについては少々驚きです。その理由を見ていきましょう。
今期は在庫管理に失敗?
在庫量が変化していないと何が問題なのか。
アパレルにおいて在庫は、「生もの(季節性がある為、時機を逃すと保管コストばかりかかる)」ので、この在庫の残り具合はむしろ在庫管理の失敗であると思います。
これは、ファストリのCFOの質疑応答にも表れています。
(https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/faq20190110.pdf)
昨年の防寒衣料の欠品の反省を踏まえ、「防寒具を多めに持っていたところ、暖冬の影響により裏目に出てしまった」との事でした。
結果として、在庫がたまってしまい、その在庫を消化するために値引きが加速することになり、原価率が上がるという結果になりました。
自社で商品を販売する企業はこのリスクを常に背負っています。
また、話が少しそれますが、このCFOのコメントから、「情報製造小売業を目指すためには季節をも考慮した、リードタイムの短縮が非常に重要」だということが分かります。
売れる商品を見極めてからでも商品を作成できるという体制は、在庫リスクを劇的に減らしてくれるのではないでしょうか。
だからこそ、ファストリはリテールの各分野で様々な企業とコラボしているのでしょう。
(https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/20181011_jimbo.pdf)
とは言え、実際に今期は在庫管理が失敗したように、ファストリと言えどもまだまだ手探りの段階なのだろうなと思います。
情報製造小売業への道はまだ半ばのようですので、ここからの進化に期待したいですね。
社債で調達した現金に大きな減少は見られない。
次に現金について見ていきましょう。
現金が大幅に増加した2018/8/31.その調達方法は「社債」でした。社債は一定期間後に利息と共に返していかなければならないお金ですので、その調達コストを上回る投資をしなければわざわざ調達した意味がありません。
その為、「海外出店を加速させるのか?」と思っていたのですが、この3カ月で大きな出店はあまり見られませんでした。
だったらこのお金を何に使うんだ?
この調達資金は一体何に使うのでしょうか。 具体的な数字にしてみましょう。ファストリが調達した社債は400億円で利息は0.88%。
単純計算で、1年寝かしておくだけで3億5200万円のコストがかかります。通常、企業経営においてはこの資金調達以上のキャッシュを創出できる先に投資を行いますので、寝かせておくという選択はないはずです。
ですが、この3カ月の投資を見ても特に大きな投資は見られません。
有形固定資産と無形固定資産に121億と59億円投資していますが、これは事業で稼いだお金で十分賄える額になります。
一体何に投資するお金なのでしょうか。残念ながら社債の投資先は、特に言及されていない為不明です。なので、現在ある情報で見ていきましょう。
現在手持ちの情報では、投資の可能性は3つ+α(IT投資)
①海外進出が今後増えていく。
「今後の展開」というプレゼンテーションを確認すると、
(https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/20181011_yanai.pdf)
このような記述がみられ、2019年秋にはインドにも出店する予定のようですので、今後海外進出を加速させることは間違いないのでしょうが、急激に店舗を増やしていくようなことはあまり考えていないようです。
②無人工場を増やしていく。
株式会社ダイフクとの協業により出来上がった有明の無人工場。こちらも非常に大きなインパクトがありましたね。自動倉庫は様々な装置を使って高効率化、省人化を進めています。
この無人工場を今後は世界中に増やしていく予定のようです。この無人工場を世界展開するのは充分にあり得るかもしれません。
この倉庫についての投資を今後推し進めていくという事も可能性として十分あり得そうですね。
③国内ユニクロの店舗を変える
このソースは日経の社長のインタビュー記事
(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO39976180S9A110C1EA1000/)です。
ヒントになる部分を引用します。
「顧客のためになっていない企業は淘汰される。それが世界レベルで進む。その中心概念になるのがグローバル化とデジタル化だ。ECと小売りがすべて融合したような企業体を目指す」
――店舗のあり方も変わります。そもそもリアルの店舗は必要ですか。
「店はすべて建て替えないといけないかもしれない。デジタル化で消費者はどこでも服を買えるようになった。逆に店舗は『そこでしか買えない』商品やサービスを提供する場になる。着こなしの提案から商品情報の収集まで、地域に根ざしながらも世界中の人が集まるような店だ。店舗を標準化するチェーンストアの時代は終わった」
「一方、海外はまだ出店していない地域がほとんどだ。そうした地域で店舗はデジタル化の足かせではなく、ブランドを訴求する助けになる。米アマゾン・ドット・コムが米スーパー大手ホールフーズを買収し、中国のアリババやテンセントもバンバン(リアル店舗を)買っている。今度は小売業がデジタル企業を買うことも出てくる」
上記の社長の言葉を見ると、海外ユニクロはブランドの広告塔として今までのような店舗を出店する一方、国内ユニクロについては「店をすべて立て替えないといけないかもしれない。」と言及しています。
このような未来の店舗の一つの姿はGUの試着のみ行える「GU STYLE STUDIO」かもしれません。
(https://www.ozmall.co.jp/omotesando/article/15953/)
こちらは試着のみ行い、欲しい商品はQRコードを読み込んで購入するという店舗。
「そこでしか買えない商品をサービスを提供する」という形についてはまだ見えませんが、店舗改革に投資するという事はあり得そうですね。
以上、今後可能性のありそうな「海外出店」「無人工場の世界展開」「国内店舗の改革」の3つについて触れてみました。加えて、ユニクロの財務諸表を見ていると「無形固定資産」への投資割合も増えているのでITへの投資も行っていくのでしょうね。
実際にはどこに重点を置いて投資していくのでしょうか。
ここを注視していくと、今後のアパレルの未来について多少のヒントを得られるかもしれません。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
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